一見、遠回りに見えて、実は文章上達の早道は、文の構造を知ることです。
文章を分解してみましょう。
長い文章は、段落が集まってできています。
段落は、文の集まりです。
文は、文節の集まりです。
文節とは、意味を持つ最小限度のことばの単位です。
つまるところ、文章は「文節」の集まりなのです。
文章とは、私たちがものを考えたり、伝えたりするための道具ですから、そのときの最小単位が「文節」ということになります。
もう一度、まとめます。
文節+文節=文(「。」で終わる、ひとつながりの文節の集合)
文+文=文章(複数の文のつながり、文の集合)
文章+文章=段落(一つの主題をもってまとまった文章)
段落+段落=長い文章
「私は、毎朝必ず早起きして散歩をします。」これを文節に区切ると、
「私は、/毎朝/必ず/早起きして/散歩を/します。」になります。
/(スラッシュ)で区切ったものが文節です。
日本語のすごいところは、文節の並べる順番がかなり自由だという点です。
試しに、上の散歩の文の文節をいろいろと入れ替えてみてください。
毎朝します、私は散歩を、必ず早起きして。
これでも通じないことはない。
英語はこうは行きません。
I love you.とは言えますが、Love I you.とは言えません。これは、英語が語の順番によってその語の役割が決まる言語だからです。
日本語は、「てにをは」といった助詞によって文節の役割が決まるため、語の順序は比較的自由なのです。
ここで、大切なのは、この長所が反対に日本語の難しさにもなっているのだということです。
わーたーしが~、しまーす。散歩、毎朝ね、早オーき、かなラーズです。
外国人の面白い日本語は、助詞や「てにをは」の使い方の可笑しさで生まれます。(反対に、日本人の変な英語は語順の間違いや品詞の使い方の間違いから生まれるのではないでしょうか。)
では、この散歩の文を、綺麗な日本語にするにはどのような文節の順番に並べれば良いでしょうか?
私は毎朝早起きして、必ず散歩をします。
ですかね。もう、気がついた人もいると思いますが、「必ず」がどの文節に係るかによって、文の内容が違ってきます。必ず「早起き」するのか、必ず「散歩」するのか。もし、散歩は気が向いたらすると言うのであれば、上の文は間違った表現ということになります。正確に言えば、「私は毎朝早起きして、気が向いたら散歩をします。」になります。もし、「必ず」が「早起き」にかかるのであれば、「毎朝」と言ってますから、わざわざ「必ず」と言う必要はありません。「私は毎朝早起きして、散歩をします。」で充分です。
このように、文節と文節の関係を意識することが分かりやすく正確な文章を書く第一歩です。
分かりやすく、美しい文にするために、ときに文節の順番を変える方が良い場合があることを知っておきましょう。
では、ここまでのまとめをします
日本語の長い文章は、段落と文章と文、そして、最小単位の文節からできています。
日本語の文は、文節の順序を意識して、文節どうしの関係が近いものを近づけて書くと、分かりやすい文になります。
文節意識をもつ。これは、文章を上達させる一つの大切なことがらです。
最後に、一問。どの文が、最も分かりやすい日本語ですか?
A きのう私は、無くした腕時計を見つけた。
B きのう、私は無くした腕時計を見つけた。
C 私は、きのう無くした腕時計を見つけた。
D 私はきのう、無くした腕時計を見つけた。
E 私は無くした腕時計を、きのう見つけた。
F きのう私は見つけた、無くした腕時計を。
もしも、腕時計を無くしたのがきのうなら、Cが最も分かりやすいでしょう。もしも、見つけたのがきのうなら、EかFが最も分かりやすいでしょう。このように、関係性の強い(修飾―被修飾)文節を近づけた方が分かりやすくなります。小論文では、分かりやすい文を書くことが大切です。
また、小論文では、倒置法は用いないほうが望ましいと言われます。Fはたぶん、文学的には美しい。しかし、説明型の文章である小論文には、余計な憶測を持ち込むような文はよろしくないということでしょう。
「美しい、…夕日が。」といった方が、え? 何が美しいの? ってわくわくドキドキしますが、小論文にはわくわくドキドキは不要。「夕日が美しい。」と言い切って、それはなぜ?「人はなぜ、夕日を美しいと感じるのだろうか。」などと展開するほうが大切なのです。
また、読点(とうてん)を打つ位置も重要です。
それについては、このあと、文の構造知ろう(5)のところでお話ししましょう。
文節意識を持とう、と言いました。次は、文節どうしの関係を考えます。
ここで文節の五つのはたらきを紹介します。
①主語…「何が(は)」、「誰が(は)」に当たる文節。その文の主体を示す。
②述語…「どうする(どうした)」、「どんなだ」、「何だ」、「ある(ない)」に当たる文節。その文の骨格となる事実や意見(判断や感想)について示す。
③修飾語…あとに続くほかの文節に説明を加えている文節。
④接続語…文と文、文節と文節をつなぐ働きをする文節。
⑤独立語…他の文節とは直接結びつかない、独立性の高い文節。
例 ああ、なんと素晴らしい景色だ。六月二十五日、この日は創立記念日だ。
そして、知っておくと有効なアドバイスです。
*アドバイス!・・・複雑な文をすっきりと分かりやすくする文節の配置は、
①「主語」と「述語」をできるだけ近づける。
② 修飾語の「副詞」は「動詞」に、「形容詞」は「名詞」に近づける。
③ 複数の「修飾語」が一つの言葉にかかるときは、長い修飾語句をその言葉の遠くに、短い修飾語句を近くに置くとよい。
それでは、次から一つずつ詳しく見ていき行きます。
主語とは、「何が(は)」「誰が(は)」に当たる文節でしたね。述語とは、「どうする(どうした)」、「どんなだ」、「何だ」、「ある(ない)」に当たる文節です。
英語では、主語の次にだいたい述語が来ます。しかし、日本語は、主語から離れて述語が最後に来ることが多い。したがって、主語と述語をできるだけ近づけるには、 一文をできるだけ短くすることが最も簡単な方法です。私は生徒には一文を60字以内(20字×20行400字詰原稿用紙の3行以内)に収めようと言います。
一文が長いと、書いているうちに主語が何であったかを忘れて、つい主語にあっていない述語を書いてしまいがちです。例えば、次のような文を書いてしまったとします。「私の将来の希望は、日本語の教師になって、世界中の貧しい子どもたちに無償で勉強を教えるのが夢です。」これがおしゃべりなら、それほど違和感はありません。しかし、文章として書かれた場合、やはりおかしな日本語になってしまっています。
主語は「希望は」です。述語は「夢です」になります。これをつなげると、「私の希望は夢です。」というおかしな文になります。では、この文を短く切ってみましょう。「私の将来の希望は日本語の教師になることです。そして、世界中の貧しい子どもたちに無償で勉強を教えるという夢をもっています。」このように、文章を書くことにまだ不慣れなうちは、短文つまり短い文を心がけると良いでしょう。短文と同時に、単文を心がけることも有効です。単文とは、主語と述語がひと組だけ含まれる文のことです。主語と述語がきちんと対応していることが、正しく分かりやすい文の条件になります。主語と述語が対応していない文を主語と述語がねじれていると言います。主語と述語がねじれた文を書かないようにするためには、やはり一文をできるだけ短く、シンプルにするように心がけるべきです。(ただし、短文、単文だけで文章を書くと、ベタな感じにもなります。ブツブツ切れる、下手な文章にもなりかねません。しかし、文章を書くことに不慣れなうちは、主語と述語がねじれてしまうよりは、少々下手でも正しい文を書くことの方が大切です。文を書くことに慣れてきたら、少し長くても正しい文を書けるように訓練していけば良いのです。)
次の文章を比較してみてください。
A
いじめは人として最低の行為だと思うが、私は実際にいじめを目撃してもなかなか注意したり、いじめられっ子の側に立って助けてあげたりできず、つい傍観してしまったり、ときにはいじめる側に加担してしまうこともある。私のような人も案外に多いのではないか。
B
いじめは人として最低の行為だ。しかし、私は実際にいじめを目撃してもなかなか注意できない。いじめられっ子の側に立って助けてあげることもできない。つい傍観してしまい、ときにはいじめる側に加担してしまうこともある。私のような人も案外に多いのではないか。
どちらが、一読してスッキリと頭に入ってきますか?
ところで、先ほどの文を一文で正しく書き直せば、「私は将来、日本語の教師になり、世界中の貧しい子どもたちに無償で勉強を教えるという夢をもっています。」となるでしょうか。これは、「私は」という主語に対して「教師になる」と、「夢をもっている」という二つの述語がつながっています。このように、一つの主語に二つ以上の述語がつながっている文を重文と言います。さらに、一文の中に主語と述語の関係が複数含まれている文を複文と言います。ではここで、文の種類を整理しておきます。
文の種類(文の構造には三種類ある)…基準は「主語―述語の関係」
【①単文】ひとつの文中に、「主-述の関係」がひとつ。
【②重文】ひとつの文中に「主-述の関係」が二つ以上あり、対等な関係で並んでいる。主語が同じ場合、略されていることもある。
【③複文】ひとつの文中に「主-述の関係」が二つ以上あり、骨格となる「主語と述語」以外に、修飾語などの中に「主語―述語の関係」が見られる。
混合文=重文+複文
*重文の例 日本は海に囲まれているため、電力の輸入に(日本は)適さない。
*複文の例 私たちが原発問題ばかりに目を奪われている間に、日本が京都議定書で約束したCO2の削減目標はどこかに吹っ飛んだ。
もう一点、ここで注意してほしいことがあります。日本語は英語と違って、主語がよく省略される言語だということです。先ほどの例文を思い出してください。
「私の将来の希望は日本語の教師になることです。そして、世界中の貧しい子どもたちに無償で勉強を教えるという夢をもっています。」
この文章の二文目は、主語が省略されています。夢をもっていますの主語は、「私は」でしょう。英語なら、I have a
dream. となるところですが、日本語では「私は」を省略した方がスマートです。文脈から、「夢をもっています」と言えば、誰が夢をもっているかは明白です。主語を書かなくても明白な場合、主語を省略した方がスマートな文になることが多いのも日本語の特徴です。
少し待てばやむだろうと思ったが、一向に上がらない。
この文の主語が「雨」であることは、明白です。これを、
雨は少し待てばやむだろうと思ったが、雨は一向に上がらない。
というとくどい感じを受けます。雪が上がるとは言いませんね。雨上がりとは言っても、雪上がりとは言わないでしょう。
日本語は、主語を必ずしも書かなくても通じる言語です。英語が主語(主体)が誰か、何か、を重視するのに対して、日本語はどうあるかと言った述語重視とも言えるかもしれません。主語は省略可能な日本語も、述語なしには意味のある文は成立しません。
いずれにせよ、言葉にするしないに関わらず、主語は何かを意識して、主語に合った述語を持ってくることが肝心です。
ここでは、修飾語の文節どうしの関係によって、どの位置に持ってくると分かりやすい文になるかについてお話しします。
ここから説明するのは、あくまでも分かりやすい文を書くという目的のために、修飾語をどの位置に持ってくると良いかという話です。正確な国文法の話ではありません。国文法の細かい点は無視しています。そこのところは了解しておいてください。(国文法を正しく知りたければ、国語の先生に聞くか、国文法の本で学んでください。)
修飾語とは、その文節がかかる相手の文節を詳しく説明するものです。
「複雑な/問題」と言えば、「複雑な」が「問題」という文節を修飾している、つまり説明しています。今論じている問題は、単純ではなく複雑なんですよってね。
修飾語には、主に「副詞」と「形容詞」があります。主にと言ったのは、他にもあるということです。しかし、ここでは、副詞と形容詞に話を限定します。
修飾語としての副詞は、動詞や形容詞、形容動詞にかかります。修飾語としての形容詞は、名詞にかかります。
副詞は名詞以外にかかると考えればひとまず良いでしょう。
では、文節の位置ですが、文節は修飾する(説明する)相手の文節に近づけた方が分かりやすくなります。
次の「副詞」は、どの位置に持ってくるのが一番分かりやすいでしょうか?
スマートフォンは、便利な道具だ。
この文に、「副詞」の「とても」を入れるなら、次のうち、どちらが良いでしょうか?
とてもスマートフォンは、便利な道具だ。
スマートフォンは、とても便利な道具だ。
入れるべき位置は一箇所。修飾する相手の「便利な(形容詞)」のすぐ前です。
とても便利な道具だ。を、とても便利だ。と言い替えることもできます。その場合は「とても」は、「便利だ」という形容動詞にかかります。さらに、「今さら」という副詞を次の文に入れてみましょう。
メールやSNSによって友人などといつでも連絡や会話ができ、知りたい情報を簡単に手に入れることができる便利な道具であるスマートフォンは、手放せない。
そう、今さら手放せない、ですね。修飾する相手はここでは「手放す」という動詞ですね。
このように、修飾する相手に近づけることを心がけることで、分かりやすい文になります。
形容詞は「名詞」を修飾します。前の文の「便利な」という形容詞は、「道具」という名詞にかかります。この二つ離すと変な日本語になります。
問題は、副詞や形容詞などの修飾語が同じ文節に向かって複数あるときです。
*読点(とうてん)の打ち方には(絶対ではないが、)基本ルールがある。
私は、小論文の書き方を勉強した。(主語の後)
大型で強い勢力をもった台風が、近づいている。(長い主語の後)
彼はボランティアをするために、被災地に向かった。
(重文の場合、一つ目の述語の後)
私たちは日本の原発問題を考える上で、
温暖化対策が原発推進の理由となっていたことも忘れてはならない。
(重文 同上)
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ルール2 関係の深い語句をまとめ、関係の浅い語句を切り離す。
私はあわてて、家を出て行った母を追いかけた。(あわてたのは私)
私は、あわてて家を出て行った母を追いかけた。(あわてたのは母)
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ルール3 接続詞や逆接の「~が」の直後に打つ。独立語の直後も。
しかし、その意見には盲点がある。(接続詞の後)
放射能はそこに存在するが、見えない。(逆接の「が」の後)
やあ、元気かい。ええ、おかげさまで。(独立語の後)
私ではなく彼が、このアイデアを考えました。(彼を強調)
美しい、夕日が。(倒置法 *小論文では倒置法はやめよう)
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ルール5 文・文節・語などを並列するときや、言い換えるとき
人は思想、信条、性別、家柄、社会的身分で差別されない。(並列)
夏の風物詩、大文字焼きは京都で行われる。(「つまり」の意味)
なお、ここに書いたことは、小笠原信之さん著作『伝わる! 文章力が身につく本』(2011)高橋書店から学びました。この本にはもっと詳細に読点の打ち方が解説してあります。
読点は、打ちすぎても打たなすぎても良くありません。(私はどうしても、多くなってしまう癖がありますが。)実践的なアドバイスとしては、原稿用紙一行に一個の「、」くらいが良いペースでしょう。必要なところに読点を打ち、必要ないところはなるべく打たないように気をつけると良いと思います。