(注)ここでは、作文や原稿用紙の作法は、守っていません。作文や原稿用紙の作法については、後ほど別のレッスンで紹介します。
小論文は、文章です。文章は、誰かに何か伝えるために書きます。誰に伝えるか。もちろん読み手にです。読み手がもし自分だけなら、日記や備忘禄(びぼうろく)です。小論文の場合、読み手は「おとなの他人」と考えておくと良いでしょう。どんな人を読み手として想定して書くかによっても文章は変わってきます。しかし、ここで大切なのは「何を」伝えるかです。小論文は何を伝えるために書くのでしょうか?
小論文で伝えることは、「意見」や「見解」、あるいは「提案」です。私はこう考える。私はこんなふうに見ている。私はこうすればよいと思っている、など。
これらをひっくるめて、ここでは「考え」ということにしておきましょう。ここまでをまとめると、第一に、小論文とは「考え」を伝える文章です。そして、他人である「おとな」に向かって、説明する文章だということになります。
では、次に、何のために「考え」を伝えるのでしょうか? つまり、小論文を書く目的は何か? さきほど、説明という言葉を使いました。そうです。説明、すなわち「事柄の内容や意味をよく分かるように説き明かすこと」が、まず最初の目的です。その先は、時と場合によって変わってくるでしょう。入試でライバルに勝つためかもしれません。あるいは、純粋に誰かに自分の考えを知ってほしい場合もあるでしょう。知ってもらって、批判してもらい、議論を深めたいのかもしれません。そこには、何が求められるでしょうか?
例えば、小論文の入試で勝つためには、説得力が求められます。あるいは、独創性が求められる場合もあるかもしれません。しかし、いずれにせよ、読み手に自分の考えていることを分かってもらえなければ、勝負にも議論にもなりません。そう、小論文を書く目的は、読んでもらう相手に「理解」し、「納得」してもらうことです。私はこう考えるのだけど、あなたもそう思いませんか?
私の見方はこうです。では、あなたは? この問題については、こうすればより良い解決方法が見つかるのではないでしょうか?
などといった自分の「考え」を説き、明らかにして、読み手に理解し、納得してもらう。私は、このことを、相手から「なるほど!」を引き出すこと、といっておきたいと思います。「なるほど!」の後に「でも…」が続いたとしても、それはそれで良いのです。いや、むしろ、その方が良い小論文と言える。このことは、また後々お話ししますね。
- ちょっとその前に、大切なことを見落としてませんか?…自分の考えを見つけることができる
ここまでのところで私は、相手の「なるほど!」を引き出すために書くのが小論文だと言いました。しかし、ここで立ち止まって考えてみてください。実は相手のなるほど!を引き出すには、それ以前に自分の考えを論理的に明確にしておくことが必要です。書くことの重要性もしくは、効用と言っても良いことは、自分自身の考えていることが明確になることです。
つまり、小論文を書く目的の根底に、自分の考えていることを明確にする、別の言い方をすれば、自分の中にあるモヤモヤしたものをはっきりとさせる効用があります。
このことに気がつくと、入試や議論以前に、書くことの楽しさを感じることができます。書くことによって自分の考えていることがはっきりする楽しさを実感できたとき、その人は大切なメソッドとして小論文を書くことを自分のものとして身に付けることができるでしょう。
ここまでを、まとめます。小論文とは、読み手である「おとな」に向かって、自分の「考え」を明確に説き明かすことで自らの考えをはっきりさせ、それを伝えることで相手から「なるほど!」を引き出す文章です。
ここまでいいですか?
では、次のレッスンにまいりましょう。
小論文には、「問い」と「答え」と「理由」が必要です。この三つを、自分のなかでどれだけ明確なことばにできるか、が勝負です。
文章にはテーマ(主題)があります。テーマとは、それをめぐって話や、文章が展開される中心となる事柄ですね。例えば、「いじめ」がテーマだとします。
次に、小論文には、そのテーマの何についての「考え」を述べるのかをはっきりとさせるような「問い」が必要です。問いは、疑問文の形になります。例えば、いじめがテーマの場合、なぜいじめは起こるのか? とか、いじめをなくすことはできるのか? いじめを減らすためにはどうすれば良いのか? あるいは、いじめを解決するためにはどのようなことが必要か?
国や時代によっていじめに違いはあるのか? いじめとは、そもそも何か?
などなど、いくらでも「問い」を立てることができます。「問い」は一つとは限りません。大きな「問い」の答えにたどり着くために、そこに至る間の小さな「問い」に答えなければならない場合もあるでしょう。いじめの対策を述べるのに、いじめの原因が分からなければ対策を述べることはできません。しかし、「小」論文の場合は、大きな問いは一つと考えた方がいいでしょう。あくまでも中心的な問いは一つ。付随する問いは複数あるかも知れません。ここでも、注意したいのは、いちいち小さな問いを言葉にしなくても良いということです。いじめの対策を論じるのに、いちいち、いじめとは何か、とか、いじめの原因は何か、といった問いは言葉にしなくても分かります。答えだけ書けば分かる問いをいちいち言葉にすると、かえって字数稼ぎや、大げさな物言いになってしまうので気をつけましょう。
「問い」がたったら、次はその問いに対する「答え」が必要です。例えば、いじめはなくすことはできない。とか、いじめを減らすには、個性を認め合える人間関係を形成することが大切だ。とか、いじめを解決するには、傍観者を減らす教育が必要である。とか、日本のいじめは、欧米に比べて比較的高学年で深刻化する傾向がある。など、自分なりの答えを示す必要があります。そして、問いに対する答えが、自分なりの考えということになります。
次に、その「考え」が出てきた「理由」を述べる必要があります。Lesson1で言った、読み手の「なるほど」を引き出すのは、この部分にかかっていると言って良いでしょう。例えば、人は一人では自分を支えきれない弱さをもっており、かつ、他者に対する優越感をもつことでしか自分の弱さをごまかせないときがある。だから、他人をいじめ、自分の下に見ることで自信のなさから目を背けようとしてしまうのだ。すべての人が自立した存在で、互いの違いを個性として尊重できればいじめは起きないであろう。なぜなら、いじめとは、いじめられる人の中に劣った性質や特徴を見出し、それを口実に自分の攻撃的行動を正当化し、いじめの対象に依存して自信を保とうとするとき起こるからだ。など、自分なりの考えが生まれた理由を説明できれば、どうしてその答えが出てきたのかを読み手が理解できるようになるのです。
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小論文に正解はないが、出題者が提示する答えの方向性はあると思え
もちろん、今書いたような答えやその理由がどこまで真実を言い当てているかは分かりません。私はもちろんいじめを専門的に研究している研究者ではありませんし、正直、いじめについてそれほど専門書を読んでいるわけでもないからです。しかし、研究論文とは違って、小論文を書く人の多くは、そのテーマの研究者ではありません。ましてや、大学入試で小論文を書く場合、出されたテーマについてどこまで専門的な知識をもっているかははなはだ疑問です。小論文に正解はないと言われるのは、こうした意味では正しいのです。よく、生徒に指導していると出てくる書けない理由の一つに、正解を出さなければならないという思い込みがあります。真面目な生徒ほどこうした思い込みに陥りやすいのです。しかし、大学教授も出題者も、正解を求めているわけではないのです。今までの経験と知識で書けることを書けば良い、と開き直らない限り、永遠に小論文は書けないとも言えるのです。ただし、入試小論文には、別の意味で正解があるとも言えます。少なくとも、出題者が求める答えの方向性はあると思った方がいい。出題者の求める方向性を見誤れば、どんなに素晴らしい文章を書いてもアウトです。それについては、また別のところで解説します。
ついでに、「問い」は出題者が提示してくれている場合と問いを自分で立てる必要がある出題の仕方があるということを言っておきます。これも、別にまた解説しますね。とりあえず、ここでは「問い」は必ずしも文章には表現しなくても良い場合があるということも注意しておきます。地球温暖化対策についてあなたの考えを述べよ、という出題に対して、わざわざ「地球温暖化はどのようにして防ぐべきか。」などと述べる必要はなく、むしろベタな字数稼ぎに見えるでしょう。「問い」は、答えとセットです。答えが明確であれば、問いは書かなくても分かるのです。場合によっては答えと理由を書けば、問いは書かずに意識しておけば良い場合もあるということも心の片隅に置いておいてください。
以上、「問い」と「答え」とその「理由」が小論文を作る要素だということをしっかりと押さえてください。最後に、理由とよく似た「根拠」について説明します。「根拠」を示すとは理由を示す中で事実をあげることです。事実はデータかもしれませんし、具体例かもしれません。根拠を示すと説得力が増します。より強い理由付けをする場合、事実としてデータや具体例を示すことができると良い小論文になるということも覚えておきましょう。
小論文は、組み立てが肝心です。
論文全体の組み立てと、各部分の組み立てを考え、全体の論理(筋道)を明確にすることが、読み手にわかりやすく伝えることにつながります。
小論文の全体の組み立てを、大構造と言います。そして、各部分の組み立てを小構造と言います。
大構造の最も基本的な構成は、序論、本論、結論の三部構成です。小構造は、大構造の中をさらに段落分けするものです。小論文では普通、本論が長くなりますから、本論の中を段落分けすることになります。
序論は導入部です。導入部でするべきことは、論文全体の見通しを読み手に示すことです。これから、こういう内容について書きますよ。とか、これから、このテーマのこんな問題点や問いについて答えて行きますよ。といった、読み手への案内をする部分です。
場合によっては、結論をここで示す書き方もあります。注意としては、余り長くならないようにしましょう。
本論は、自分の考えとその理由を展開する部分です。この部分が勝負です。ここですべきことは、自分の立場(立ち位置)や考え(問いに対する答え)を明確にすること。そして、具体例やデータなどの根拠を示しながら、自分の考えが出てきた理由を筋道立てて述べることです。
序論で結論を述べていない場合は、ここで結論を述べます。
注意すべきことは、本論が貧弱にならないようにすること。不要な話題を削り落としつつも、論理(筋道)を明確にしながら必要不可欠な情報を述べることです。必要に応じて、段落を分けます。
結論は、そこまで述べてきたことのまとめをする部分です。内容は、本論の繰り返しでかまいません。要点をまとめます。
短い小論文で、序論や本論で結論を述べられなかった場合は、ここではっきりと結論(自分の答え)を述べましょう。
また、長めの小論文の場合は、結論から見えてくる展望を示すこともできます。ただし、展望は、必ずしも必要ではありません。
ここで注意したいことは、結論部になって、本論で述べていない新しい情報や考えなどを書かないこと。初心者にありがちですが、書いているうちに新しい考えや理由などが浮かんできてしまい、あれも触れておこう、これも書いておこうという気を起こしてしまうのはいけません。
結論部はあくまでも、まとめ。そこまでに述べてきたことの重要な部分をハッキリとさせることです。展望は、結論を受けて次の展開や未来を見つめ、ここで論じ切れなかったり、解決し切れなかった次の問題点などを指摘しておくだけにとどめましょう。
では、ここでよく用いられる四段落構成で書く場合を例に、もう一度、大構造の各部分で書く内容を説明します。
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序論・・・自分が何について書くのかをはっきりさせる部分(全体の分量の約10%~20%)
自分が設問を受けて、何について問われているか、どんなことについて書こうとしているかをハッキリさせる部分。
小論文全体の「書き出し」部分にあたり、自分の体験やテーマに関連した話題などの中から「問い」をハッキリさせてくれることがら(設問がすでにはっきりした問いである場合は、それに対する答え、すなわち結論)を見つけて書く。
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本論(1)・・・自分の立場(立ち位置)を明確にする部分(全体の約15%~25%)
序論で「問い」を提示した場合、その問い対する自分の答えを示します。ここでよく用いられる方法として、自分とは反対の立場や異なる意見を提示して、それに対して「しかし、~(自分の意見はこうだ)」という自分の立場を示す方法です。自分の考えを次の段落以降で詳しく展開する前に、立場の異なる意見の人々を想定し、そこに向かって反論し、相手を説得して行くつもりで書くことで、自分とは違う考えもちゃんと分かってますよ、という視野の広さを示すと同時に、説得すべき相手に向かって書くことでぶれずに書くことができます。この方法は、古代ローマの名文家として知られるキケロが勧めているくらいで、書きやすく、かつ、読み手にもわかりやすく書くことができる方法です。(ただし、本屋に行くと沢山並んでいる、あるポピュラーな小論文の講師が「確かに、〜。しかし、〜。」で二段落目を書くことを勧めている影響もあるためか、多くの受験生がこの書き方を用いるらしく、おそらく大学で採点する人々は、二段落目が「確かに」や「もちろん」で始まる答案には少々飽きているかもしれません。)
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本論(2)・・・前の段落を受けて、自分の意見の中身を述べる部分(全体の約25%~50%)
本論(1)で示した説得相手に対し、自分の意見を存分に展開する部分です。ここが勝負どころです。相手を説得する理由や根拠を論理的に(筋道立てて)書きます。当然、この部分が最もボリュームがあるはずです。字数が多い場合は、ここを段落に分けて書くと良いでしょう。
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結論・・・全体の締めくくりとして要点をまとめる部分(全体の約10%~25%)
ここまでに述べた自分の意見を、もう一度要点に絞って再確認します。読む人にハッキリ印象づけるつもりで書きましょう。キラリと光る決めの一文があるといいですね。
ここまでのLessonの内容を図でまとめます。(作成中)
入試などで、小論文が出題される場合の出題パターンは、だいたい以下の四つです。
- テーマ型
- 課題文型
- データ・図表読み取り型
- 英文型